砂地栽培の布引大根が美しすぎる|ピンセット1本でまりひめを守る若手農家の哲学【和歌山農業視察レポート1日目】

今年1月15日から16日にかけて、1泊2日で和歌山県の先進的な農業経営を視察してまいりました。

目的は、他県の優れた取り組みから学び、農業の発展につながる知見を得ること、そして地域農業の振興と農業士同士の交流を深めることです。

実は昨年秋、和歌山の農業士の皆さんが奈良県を訪問してくださったご縁があり、今回は心温まる歓迎ムードで迎えていただきました。
和歌山県農業委員会の会長をはじめ、中心メンバーの皆さま、県職員の方々が総出でサポートしてくださり、終始心地よい雰囲気の中で充実した視察となりました。

本稿では、1日目に訪問した2軒の農家さんについてご報告します。

【1軒目】和歌山市布引・南方氏の圃場

品目:葉物野菜と布引大根

紀の川の恵みが育む、砂地栽培の魅力

南方さんの圃場では、ほうれん草、春菊、そして和歌山の伝統野菜である布引大根が栽培されていました。
印象的だったのは、生姜を栽培した後の畑でほうれん草を育てているという工夫です。

畑のあちこちに生姜の香りが残っており、それが天然の忌避剤のような役割を果たしているようでした。土地を無駄なく、効率的に活用する知恵や工夫があります。

この地域の最大の特徴は、紀の川流域ならではの砂壌土です。

住宅街の中にあるとは思えない、サラサラとした独特の土壌。かつて紀の川が運んだ砂が堆積し、長い年月をかけて現在の土壌が形成されたといいます。

実際に畑を歩かせていただくと、表面は固く見えますが、深く掘り起こすとサラサラの砂質土。

地下2メートルほどのところには淡水層があり、灌水設備は4メートルの深さから水を汲み上げているそうです。豊富な水に恵まれた、まさに農業に理想的な環境でした。

布引大根の美しさに息を呑む

何と言っても、ここでの主役は布引大根です。

砂地栽培の利点がそのまま現れたような、驚くほど肌の美しい大根。

小石が混じらないため傷もつきにくく、水はけの良い土壌でスッと真っ直ぐに伸びています。きめ細やかな白さは、まさに芸術品のようでした。

あまりにも水分が含み過ぎており、ちょっとした衝撃でヒビが入り出荷対象には難しいとのことでしたが、「YR鞍馬」という品種を分けていただきました。
ヒゲ根が少なく水分たっぷりのこの大根を生でかじってみると、驚くほどサクサクとした食感で、瑞々しく優しい甘みが口いっぱいに広がりました。

小規模経営という選択

南方さんは息子さんが農業を継ぐ際、法人化も検討されたそうです。しかし最終的に選んだのは、品質重視の小規模経営でした。

その理由は明快でした。
「野菜は果物と違って、もともと単価が安い。人件費を価格に大幅に上乗せすることはできない。大規模化すれば細かい管理が行き届かなくなり、品質が落ちる可能性がある。品質が落ちれば単価も下がる。それでは何のために規模を拡大したのかわからなくなる。自分の目が届く範囲で、高品質なものを作る方が性に合っている」

資材費は年々上昇していますが、消費者がそれに見合った価格を払えるとは限りません。

だからこそ、効率的な小規模経営で品質を追求する——その哲学が、南方さんの言葉の端々から伝わってきました。

興味深かったのは、大根のサイズに関するお話です。実は大きな大根の方が味も良いそうですが、消費者は小さめを好む傾向があるとのこと。

特に高齢者にとっては、大きすぎると調理も持ち帰りも大変だという現実的な理由があります。

この地域の農業は、紀の川の恵みと砂壌土という特殊な土壌を活かした伝統的なものでありながら、時代に合わせた工夫を凝らした栽培方法が特徴でした。

親子で経営方針を可視化し、未来を見据えながら歩んでいる姿に、深い感銘を受けました。

【2軒目】御坊市岩内・西崎氏の圃場

品目:まりひめ(和歌山ブランドいちご)

 

和歌山の宝石「まりひめ」との出会い

2軒目は、和歌山が誇るブランドいちご「まりひめ」を栽培する西崎さんの圃場です。

まりひめの特徴:
• とにかく甘い:酸味が少なく、甘みが非常に強い
• 香りと果汁:口に入れた瞬間に広がる華やかな香りと、したたるようなジューシーさ
• 美しい形:和歌山の郷土工芸品「紀州手まり」にちなんだ名の通り、やや大粒でツヤがあり、きれいな円錐形
• 希少性:和歌山県外ではほとんど栽培されていない

驚愕の栽培哲学——ピンセット1本の戦い

西崎さんの栽培哲学の中核は、徹底した減農薬へのこだわりでした。
そして私たちが最も驚いたのは、病害虫対策の方法です。なんと、ピンセットでヨトウムシを1匹ずつ駆除しているというのです。

ハウス内を丁寧に巡回し、いちごの葉を1枚1枚めくりながら、幼虫のうちに見つけて取り除く。
病気については、発見した日付を記録し、次回の探索で重複を防ぐ運用まで徹底されています。

しかもこれを、2人で1反分のハウスすべて行っているとのこと。西崎さんの年齢は39歳。この若さだからこそできる技なのかもしれません。

「農薬を使っていないから、香りが全然違うんです」
西崎さんの言葉には、確かな自信と誇りが込められていました。

品質基準も厳格です。自分が美味しくないと思うものは、花の段階で切ってしまうそうです。判断基準は、常に自分の目線。その徹底ぶりに、プロフェッショナルの矜持を感じました。

こだわりは運送にまで

出荷先は主に京都。
地元と京都の取引先に丁寧に営業を行い、信頼できる運送会社と提携されています。

まりひめは果実が柔らかいため、運送中に傷んでしまうリスクが常にあります。
当初は何度も自ら手で運び、運送会社を慎重に選定したそうです。品質を守るためには、ここまでしなければならない——その覚悟が、ブランドいちごとしての地位を築いたのだと感じました。

現在は贈答用ギフトとして百貨店などで高値で販売されており、西崎さんのこだわりが存分に評価されています。

ただ、今後の課題として「拡大と縮小の判断」を挙げておられました。縮小は簡単だが、その後拡大しようとすると大変。継続と品質維持の両立——これは多くの農業者が直面する永遠のテーマでもあります。

和歌山の優しい甘さ

視察の最後に、初めてまりひめをいただきました。
本当に柔らかく、優しい甘さ。口の中でとろけるような食感と、華やかな香り。これが和歌山の味なのだと、心から納得しました。

和歌山では、フルーツパフェやホテルのデザートにもまりひめが積極的に使われており、道の駅でも多く販売されています。それほどまでに愛されている、地域の宝です。

ぜひ和歌山を訪れた際は、このまりひめをご賞味ください。

1日目の視察を終えて

今回訪問した2軒の農家さんは、どちらも個人事業主でありながら、それぞれ明確な課題意識と経営哲学を持って農業に取り組んでおられました。
印象的だったのは、地域のブランド力を意識し、それを自らの強みとして活かしている点です。

布引大根も、まりひめも、その土地でしか生まれ得ない個性と価値を持っています。
小規模であっても、品質にこだわり、自分の目の届く範囲で最高のものを作る——そんな姿勢が、結果として消費者の信頼とブランド価値を生み出しているのだと、強く感じました。

明日は2日目の視察です。引き続き、和歌山の農業から多くを学んでいきたいと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​